oneself 後編
年が明けてから、あたしはお店を2週間ほど休んでいた。


髪の毛の色を落として、爪先のスカルプも綺麗に落とした。


”施設介護実習”


そう呼ばれる、講義で学んだ事を元に、実際に施設に行って実践に移す授業の為に。


あたしが小学生の頃。


同居していた、父方の祖母が亡くなった。


死ぬ間際の数週間。


母は動けなくなった祖母の為に、食事の世話をしたり、下の世話をしたりと、自分の寝る時間を削ってまで、頑張っていたのを覚えている。


子供ながらに、他人にそんな風に出来る母を素晴らしいと思った。


そんな気持ちを胸に、あたしは介護福祉科に進んだ。


そして今回の実習で、あたしの夢は確かなものになった。


一緒に行動していた奈美と、いつかの夜に熱く語り合った以上に、沢山の事を話し合った。


自分がキャバ嬢なんて事はすっかり忘れて。


哲平の事も普段より考えずに済んだ。


それほど、その日々はとても充実したものだった。


そして、それを数日前に終えたあたしは、久し振りにお店に出勤した。


そこで店長から聞かされた、今後のイベントの詳細。


今月末の29、30、31日に行われる、ヒナタさんの引退イベントについて。


ヒナタさんが今月末でお店を辞める…?


新しいお店を出すだとか、留学するだとか、結婚するだとか。


スタッフ内では様々な憶測が飛び交っていた。


本当の理由は何なんだろう?


客の隣で上品に笑う彼女をぼんやりと眺めながら、あたしは考えていた。


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