oneself 後編
「あ、ここ知ってる?」


突然、テーブルの上に置いてあった携帯を手に取り、何やらカチカチと操作をすると、翼はあたしにそれを差し出した。


”関西ホスト 爆弾サイト”


黒色の背景に、赤い文字でそう書かれてある。


「何これ?」


「哲平君の情報もあるかもよ?」


そう言って、翼はクスッと意味深に笑う。


聞けば、2チャンネルのようなサイトで、関西ホストのお店ごと、スタッフごとのスレッドがあり、そこでは沢山の情報が飛び交っているという。


「ここでね、今ハルの本彼はあたしって噂されてるの」


得意げに翼は言い、もう一枚マグロの刺身を口にほおりこむ。


あたしは携帯をパチンとたたむと、「ふ〜ん」と、興味なさげに答えて、それを翼に差し出した。


何だか翼は変わった。


嫌な風に。


携帯を突き返された翼は少しだけ驚いた顔をして、でも何かを感じ取ったのか、それ以上は何も言ってこなかった。




「帰ろっか」


2杯目のグラスが空になった頃、翼は伝票を手に取って、あたしの返事を聞くまでもなく立ち上がった。


「うん」


昔は何時間だって飽きずに喋っていられたあたし達。


でも今日はたった1時間足らずでお店を後にした。


そして、少しぎこちないバイバイをしてから別れた。


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