oneself 後編
「最後に聞いてええか?」


望月さんは腕時計をチラッと確認し、シャンパンをグイっと飲んだ後、ヒナタさんを見つめて言った。


「どうぞ」


「何で辞めるんや?」


望月さんの真剣なまなざしに、あたしも思わずゴクリと唾を飲み込む。


ヒナタさんはあたし達の顔を交互に見つめ、そして柔かい笑顔で微笑んだ。


「結婚するんです」、と。


驚いて目を見開いて驚くあたしとは対照的に、望月さんは分かっていたかのように頷いてた。


そして静かに、「おめでとう」と、もう一度グラスを手に取った。


カチン…


そして、店長の声がマイクを通して聞こえてくると、ヒナタさんはフロアの真ん中に呼ばれ、最後の挨拶を始めた。


隣にいる望月さんの顔をチラリと見る。


「親子のような関係」、いつかの言葉。


彼の目には、うっすらと涙のようなものが浮かんでいた。


「本当にありがとうございました」


彼女の最後の言葉に、盛大な拍手が送られる。


5年間の集大成とも言える、素晴らしいラストだった。


いつか…


あたしにも、こんな日が来るのかな。


ヒナタさんの立っている場所に、自分を重ね合わせた。


そして…


同じく哲平の姿も。


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