oneself 後編
「嘘つき」


もっと泣きわめくかと思っていたけれど。


意外と冷静に、いや、むしろ冷静過ぎて怖いほどに。


あたしは昨日の一部始終を淡々と話した。


鳩が豆鉄砲を食らったような。


その言葉がピッタリな哲平の顔。


そんな哲平を眺めながら、あたしは考えていた。


この先あたし達は、どうなるのだろうと。


哲平はその事実の内容を、どう説明するのだろうと。


「何もなかった」


もしそんな言葉が返ってきたとしても。


「そっか」


それで済むほど、あたしは子供じゃなくなった。


あたしに嘘をついてまで。


ホテルで一晩過ごしてまで。


何もないはずがないでしょう?


あたしと哲平の間に流れる、チクタクという時計の秒針の音。


両手を床について、頭をもたげる哲平。


あたしは哲平のつむじを、黙って見つめていた。


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