oneself 後編
「お疲れ様」


閉店を迎え、私服に着替えてお店を出たあたしを、斎藤さんが優しく労わってくれる。


あの後、あたしは少しだけ考えて、「分かりました」、そう答えた。


今まで、数人でのアフターはあっても、二人っきりのアフターはした事がなかった。


それが危険な意味を持つ事を。


何となく分かっていたから。


じゃああたしは何故OKしたの?


理由は一言では片付けられない。


今日だけは、一人で過ごしたくなかったのもあった。


今日、哲平があの子とアフターする事。


今までだって、哲平はそんな時間を過ごしてきた事。


それに対する対抗心というか、やり返しのような気持ちもあった。


そして、疲れきってしまっている自分を。


優しく包み込んでくれる人が欲しかった。


こんな事、友達になんて言えやしない。


言えば、「別れろ」、そう言われるだろうから。


唯一、そんな話が出来た翼とは、あれっきりで。


あたしは今日の今日まで、一人で抱えてきた。


斎藤さんは、余計な事は、言わない、聞かない、無理強いだってしない人。


それに、あたしにとっては、全てにおいて初めての人。


そんな彼は、今のあたしにとっては、うってつけの人物だった。


「飲み直そうか」


斎藤さんの一言で、あたし達はゆっくりと歩き出した。


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