oneself 後編
ザーッ…


数メートル先の脱衣場から漏れる、シャワーの音。


ふわふわのソファーに座り、ハンガーに掛けられた斎藤さんのスーツを、ぼんやりと眺める。


そして、バスローブを身に纏って出て来た彼と入れ違いに、あたしは脱衣場へと向かった。


ザーッ…


熱いシャワーを、頭から浴びる。


あたしは今、何をしているの…?


そんな事を思う、冷静な自分がいる。


でも、あの日の哲平を許して、これからも付き合っていく為には。


こんな方法しかなかったんだ。


卑怯で、最低な事だと、分かっていても。


バスローブ姿で脱衣場から出て来たあたしを見て、斎藤さんは柔らかい表情で笑った。


そして。


自分の座っているベッドの隣を、ポンポンと叩く。


あたしはその場所に、ゆっくりと足を進める。


本当にこれでいいの…?


そう思いながらも、斎藤さんの流れるような行動にエスコートされて。


あたしは一瞬のうちに、バスローブを脱がされて、ベッドの上に横たわっていた。


「綺麗だね」


そう言って、斎藤さんがあたしの手をギュッと握る。


あたしはその手を握り返さず、ただただ奥歯だけを強く噛み締めた。


彼の事が好きなの?


彼にひかれているの?


そう問われれば。


哲平への思いとは全く別物だけど。


彼に対して好意は持っている。


そう答えるだろう。


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