oneself 後編
カタン…


眼鏡を取った斎藤さんは、実年齢より若く見えて。


ふいに、この前の哲平の姿を思い出した。


色白な肌。


華奢な体つき。


今、目の前にあるのは、日に焼けていて、痩せていても筋肉質な哲平の体とは、全く別のもの。


もう、何も考えたくなかった。


あたしは、そっと目を閉じた。


斎藤さんがあたしの髪を、頬を撫でていく。


そして唇に、温かいものを感じる。


シーツを握る手に、ギュッと力を込めた。


そして、その温かいものが首へと下がり、その下へと進もうとする時…


「今日は寝ようか」


いつもと変わらない、斎藤さんの優しい声が聞こえた。


頬から首筋に伝う液体の感触。


それをそっと手で拭ってくれた斎藤さんは、あたしにそっと布団をかけた。


「ごめっ…」


そう言いかけたあたしの唇に、斎藤さんがそっと人差し指をあてる。


出来なかった。


あたしの体が、哲平以外の人を受け入れる事を。


自然と拒否していた。


触れ合う肌の感触も。


そこから感じる体温も。


あたしを包み込む腕のたくましさも。


何もかもが違って…


あたしの体は、こんなにも哲平を覚えているんだと。


痛感しただけだった。


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