oneself 後編
それからは慌ただしく動き回るスタッフを横目に、あたしは待機用のソファーから、店内をのんきに眺めていた。


ほとんどの席は客で埋まっている。


もちろん待機用の席にいるのはあたしだけだった。


こんな状況なのに、あたしを席につけないのは、店長の遣いなのか。


それとも、使えない女だと思われているからなのか。


せっかく前向きになった気分は、またしても後ろ向きになっていく。


まだ胸の奥に残るようなビールの感触が、なおさら不快さを募らせた。


今日の稼ぎで、携帯代は払えても、カードの支払いまでは払えない。


でも、カードの支払いまでは、まだ猶予がある。


それまでに、別の仕事で、お金を工面出来るだろうか。


今日始めたばかりのこの仕事は、最初で最後になるのだろうか。


そんな事を考えながら、前田さんの席に目をやった。


隣に座る女の子は、いかにもキャバ嬢です!、と言わんばかりの、派手な感じの子だった。


でも、綺麗な顔立ちと、華奢な体のライン。


あたしなんかより、十分に素敵な子だ。


前田さんは、あの子を指名するのかな?


哲平のお客さんも、あんな子なのかな?


ふと哲平の事が頭をよぎる。


今まであたしは、イメチェンして、自分がすごくイイ女になったような気がしていた。


でも、まだまだだよね。


お店の中でさえ、こんなに綺麗な人が沢山いるのに。


哲平の周りには…?


なおも落ちていく気分を振り払うように、あたしは頭を大きく振った。


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