oneself 後編
そんなあたしの顔を見て、前田さんはまた、照れたように笑い返してくれた。


それからは、お互いにぎこちないながらも、沈黙にならない程度に会話は続いた。


前田さんは、大学1年生の頃に付き合っていた彼女に浮気されてから、女の人が苦手になったという。


彼は今24歳、もうかれこれ5年ほど、彼女はいないらしい。


「ミライちゃんは、彼氏はいるの?」


話の流れからか、あたしに向けられる質問。


彼氏…


「いないですよ~」


あたしは自然と、そう口にした。


だって、「います」なんて、言えないでしょう?


仕方ないよね?


哲平だって、そう答えてるんだ。


そう自分に言い聞かせながら、それを聞いて嬉しそうに笑う前田さんを、あたしは黙って見つめていた。


「良かった」


何が良かったのかは分からないけれど、前田さんはそう言った。


あたしに彼氏がいない事を嬉しく思うのは、どんな感情からなのだろうか?


哲平のお客さんも、彼女がいないと聞いたら、やっぱり喜ぶのだろうか?


哲平の事を思うと、少しだけ気分が沈んだ。


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