oneself 後編
まずはここのお店の他にも、梅田、ミナミ、十三に系列店が5店舗ある、大型チェーン店だと、店長は誇らしげに話す。


翼も言っていたが、この世界には怖い人が経営しているお店も多く、そういう場合、給料を支払ってもらえなかったり、辞めさせてもらえなかったりというトラブルも少なくないらしい。


「そういう点は、うちは安心してもらっていいから」


店長は自信ありげに言った。


そして次は、給料について。


何もかもが初めてだという事を伝えたにも関わらず、店長は今日の時給を3000円でと言ってくれた。


隣で聞いていた翼が、「やったね!」とピースする。


もちろん翼から聞いていた通り、給料は日払いで貰えると言った。


そして次に、仕事内容について。


お客さんとの会話、お酒を作る事、煙草の火を点ける事などを、店長は早口で説明した。


時間が迫っていた為、簡単な説明だけで、後はお店が開店してからの実戦の中で、ボーイや翼に教えてもらえばいいと言う。


全くの未経験なのに…


困惑するあたしに、店長は、「とりあえず笑顔でおってくれたらいいよ」と言った。


それらを一気に話した店長は、履歴書に似た用紙をあたしに差し出した。


「出来そう?働けるならこれに記入して」


普通のバイトなら、相手側が採用か不採用かを判断する。


ここではあたしの一声で決まるんだ。


あまりに淡々と進んだ面接に、戸惑いを隠せない。


もしかしたら、店長はあたしの容姿や反応を見て、この子には無理なんじゃないかと思っているのだろうか。


きっと美人でかわいい子なら、「是非うちで働いて欲しい」という、熱心なアプローチもあるのかも知れない。


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