oneself 後編
テーブルの上のペットボトルのお茶を一口飲むと、それを乱暴に戻す。


怒ってますと言わんばかりの、哲平の態度。


確かに嘘を付いた事と、事前に相談しなかった事は、悪いと思う。


でもホストをしている哲平に、ここまで仕事について反対されるなんて、おかしいんじゃない?


「とにかくキャバクラなんか辞めえや。心配やし…」


少しだけ冷静を取り戻したのか、哲平はあたしを諭すように呟いた。


心配なのは、あたしだって同じだよ。


そんな不安から、哲平に見合う女になりたくて、あたしは必死だったのに。


いつまでホストを続けるかも分からない。


綺麗な女性に囲まれて、その人達と連絡を取ったり、お店以外でも会うくせに。


何であたしだけが、こんなに反対されなきゃいけないの?


唇を噛み締めるあたしに、哲平は頭を掻きながら、「大きい声出してしまってごめんな」と、申し訳なさそうに言った。


あたしは無言で首を横に振る。


哲平がこんな風に声を荒げる姿なんて、見た事がない。


怒っているところだって、見た事がない。


正直すごくびっくりしたけれど、それは哲平も悪かったと反省してるんだと思う。


でも、こんなに反対されると思ってなかったあたしは、そんな哲平の勝手さに、少しずつ苛立っていた。


そんな事に気付きもしない哲平は、テレビのリモコンをいじりながら、話題を変えるように言った。


「徹と同じとこで働いたら?あいつでも出来るんやし、未来なら大丈夫やろ?」


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