oneself 後編
パタン…


玄関の扉が、鈍い音をたてる。


哲平の見送りはない。


あたしは重たい足取りで、一歩を踏み出した。


あれから哲平は、もう声を荒げる事もなく、冷静にあたしに告げた。


「俺は反対やから…」、と。


あたしは静かに立ち上がり、「今日はもう帰る」とだけ言って、部屋を後にした。


そんなあたしを、哲平は引き止める事もなく、追いかける事もなく…


何でこんな風になっちゃったんだろう?


もっと上手く話せば、何かが変わったのかな。


大きく溜息を吐き出して、空を見上げた。


朝よりも、もっと黒い雲が空一面を蔽っている。


哲平の部屋にいたのは、たったの1時間。


数週間前、哲平が寝てしまった時よりも、はるかに複雑な気分で。


あたしは駅までの道のりを、早足で歩いた。


哲平とこんな風に喧嘩したのは、初めての事だった。


家に着く頃、少しずつ降り出した雨は、夜には本格的になり、梅雨の始まりをニュースが告げていた。


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