oneself 後編
そんなあたしに全く気付く様子のない哲平は、一方的にその日を指定してきた。


「明日1部であがらしてもらうわ。その後にしよ」


あたしの都合なんて、お構い無しなんだ。


例えば哲平が、仕事を休んでくれたら。


2部を休むのではなく、1部を休んでくれたら。


あたしは日がかわる頃には、家に帰って来れる。


両親にも、嘘を付かなくて済む。


昔の哲平は、そんな事にも気配り出来る人だったのに。


高校生の頃。


「早く帰らんで大丈夫?家の人心配せえへん?」


そう言ってくれていた哲平は、どこへ行ってしまったんだろう。


「勝手やな…」


あたしは溜息混じりに、そう呟いた。


数秒間の沈黙。


「ごめんな…」


低いけれど、さっきみたいに刺々しくはなく、頼りない声。


電話の向こうで困った顔をする哲平の姿が、何となく想像出来た。


あたしは言いかけた言葉を、ぐっと飲み込んだ。


「分かった、明日な」


哲平の反対を押し切ってまで働いたら。


別れが待っているかも知れない。


哲平とこんな関係のままじゃ。


誰かに取られてしまうかも知れない。


だから、会ってちゃんと話をしなきゃ駄目だと思ったんだ。


< 73 / 244 >

この作品をシェア

pagetop