oneself 後編
それ以上会話は続く事のないまま、以前来た事のあるホテルに到着すると、あたし達は足早にタクシーを降りた。


ほとんどが真っ暗で点灯していないパネルの前で、空いている部屋を適当に選択すると、無言でエレベーターに乗り込む。


エレベーターを降り、通路を歩いて、部屋の前に辿り着いた時、哲平がふいに声を上げた。


「この部屋、前と一緒やな…」


扉を開けると、見覚えのある部屋の造り。


「ホンマやな…」


あの時何を話したかなんて、あんまり覚えてないけど。


それでも何となく、良い思い出じゃないような気がした。


あたしはソファーに、哲平はベッドにゆっくりと腰を下ろす。


ブオーンという空調機の耳障りな音が、やけに耳についた。


「ちょっと、ごめん」


そう言ってトイレに立つ哲平。


その後ろ姿をぼんやりと眺めながら、あたしはこの先の話し合いを想像していた。


きっと哲平は、何が何でも反対するだろう。


でもあたしは、ここで辞めるわけにはいかない。


そう、漫画喫茶の求人情報を見て思った。


ずっと続けるなんて、言ってる訳じゃない。


ただ、後3回。


いや2回、いや1回でもいい。


カードの支払いを含めた、今のあたしに必要な金額を稼ぐ間だけでも。


パタン…


トイレのドアが閉まって、こちらに向かう哲平の足音に、あたしはゴクリと唾を飲み込んだ。


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