oneself 後編
「ごめんな、今日。家の人は大丈夫やった?」


あたしの心の声が聞こえたかのように、ゆっくりとベッドに腰掛ける哲平は、申し訳なさそうに呟いた。


全然大丈夫じゃないよ。


そう言ってやろうかと思ったけど、その顔があまりにも頼りなくて。


あたしは言葉を飲み込むと、「大丈夫やで」、とだけ答えた。


スーツの上着を脱ぎ、無造作に床に置く哲平。


「しわになるやん」


あたしはそれを拾い上げ、ハンガーを探す。


見つけたハンガーに上着をかけると、ドサッと哲平がベッドに寝転ぶ音が聞こえた。


何から話そう。


どうやって話そう。


頭の中を整理しながら、哲平の方を振り向けないでいるあたし。


「仕事の事やけどさ」


背中越しに聞こえた声に、背筋が伸びる。


でも、次の瞬間、あたしは耳を疑った。


「もう、未来の好きなようにしたらいいから」


「えっ?」


慌てて振り返ると、両手を頭の下に組み、天井を見つめている哲平。


< 79 / 244 >

この作品をシェア

pagetop