oneself 後編
「乾杯!」


スーツ姿の彼らは、「この瞬間の酒が1番ウマい!」と、口元の泡を拭いながら言った。


出張で大阪に来ていた彼ら。


聞けば明日には神奈川に戻るので、今日が大阪最後の夜だという事だった。


「椿ちゃんには、負けるよ」


そう言って苦笑いの、斎藤さんの友達。


「そんな事言って、河瀬あれからも行こう行こうってうるさかったしね」


斎藤さんが笑って言うと、河瀬さんは「それはお前だろ」と、突っ込んだ。


そんな二人のやり取りに笑っていると、斎藤さんは膝をあたしの方へ向け、優しく問いかけた。


「どう、慣れた?」


慣れるもくそも、今日が2回目の出勤。


正直、全く慣れてませんといった状態。


でも、初めてのお客さんである斎藤さんから、初めての本指名をもらえた事。


あたしはそれらを感謝とともに説明する。


斎藤さんは最初驚いて、でも、「ミライちゃんの初めてで嬉しいよ」と、笑って言ってくれた。


斎藤さんとは前以上に、沢山の事を話した。


彼が勤めているのは、介護施設にベッドなどを売る会社で、彼はそこの営業マンだった。


思いがけない共通点に、あたしは将来の夢を語った。


「じゃあいつか、ミライちゃんの働くところに、営業に行くよ」


明日、神奈川に戻ってしまえば、もう二度と会う事はないかも知れない。


そんな可能性はあるのかないのか分からないけれど、そんな未来があればいいなと思った。


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