†危険な男†〜甘く苦い恋心〜
「……樹里」
廉はあたしの手を握り返し、クイッと引いた。
「ひゃっ……廉…?」
運転席の方に引き寄せられ、ギュッと抱き締められる。
背中に回る温かい腕。
心臓がバクバクうるさいよ…。
「悪い、樹里……少しだけ…このままでいさせてくれ。」
耳元で低く囁かれて、動けなくなる。
あたしは小さく頷いて、彼に体を任せた。
あたしの肩に頭をくっつけて、項垂れる廉。
あたしはそんな彼が愛しくなり、優しく背中を撫でてあげた。
今日は本当にありがとう。
そんな気持ちを込めて…。
「ふっ、優しいな……樹里は」
廉は肩に顔を埋めたまま、笑いを含んだ声を出す。
あたしは何も言わず、逆にギュッと彼を抱き締めてあげた。
今、離したら……廉がどこかに行ってしまいそうで。
消えてしまいそうで。
あたしは震えながら廉を抱き締め続けた。
どこにも行かないで……。
そう思いながら。