夕 月 夜
哀愁に満ちた空気の中で、俺は優一の姿が見えなくなるまで、立ちすくんでいた。
「何処へ行く、健太郎」
帰宅した後に、頭の奥の重みを取り除けないかと花月楼へ行く為、履き物を履いていた俺に、親父が声を掛けにきた。
「…級友に、勉学を教えて参ります」
嘘をつくのは、もう馴れた。
「左様か、大層な事だ。
お前だけは、仲村家の立派な跡取りになるのだぞ」
「はい、分かっています」
うざったい…。
「あまり遅くならぬようにな」
「はい、行って参ります」
俺は、親父に振り向く事なく家を出た。
親父が疑いの目を向けていた事に気付かずに…。