夕 月 夜
「わぁ…、綺麗」
そう 俺が差し出したのは、ずっと渡せずにいたあの簪。
「くれるの?」
鈴音は、嬉しそうに俺にそう聞いた。
「ああ、お前に似合うと思ったんだが…」
髪に飾ってやろうとした。だが、今 鈴音は髪を結んでいない…
どうしたら、良いだろうか…。
「ありがとう、健太郎」
鈴音は俺の手を優しく握り、着物の帯へ導き、帯に簪を挿した。
「鈴音…?」
俺は、その行動を不思議に思った。
「頭の上にあったら、私には見えないけれど…
ここにあれば、失わないし いつまでも大切に出来ると思うの。