夕 月 夜



スススッ。


「よし、誰も居ない…」


襖を開けて廊下を覗くと、ヒトは誰も居なかった。


その代わり、それぞれの部屋からは妖しげな声が聞こえる。




誰にも気付かれないように、そっと部屋を出る。


出来るだけ足音を立てないように、そっと歩く。


そして、フラフラと百合香お姉様のところへ…。




久しぶりの外の空気は、少し涼しかった。



「今日は、相馬様来ない日なんですね…百合香お姉様」


百合香お姉様のお墓に、話し掛けてみる。

もちろん、返事なんて返って来ない。


御守りの埋まる小さな土の山に、一本の扇子が立っていて、その横に一輪の百合の花。


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