夕 月 夜


扇子はもう、雨風にさらされて色褪せて脆くなってる。

それでも何かを守るように、立派に佇んでいる。


確か相馬様が手を合わせる時、同じようなモノを持っていた気がする。



姿が亡くなっても愛されるって、どのぐらい幸せなんだろう…。



「百合香お姉様、お幸せですか…」


また、意味もなく問いかける。返事なんて返って来ないのに…。


「鈴音も、もう少ししたら、百合香お姉様のところへ行きます。
その時は… よろしくお願いします」



もしかしたら、片海先生の所へ行く前に、終わってしまいそうな気がする…。



手を合わせて、目を閉じた。


ただひたすら、目を閉じて祈った。




―――『鈴音…』



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