ノスタルジア・ロック
ノスタルジア・ロック
1
『挨拶くらいすれば。』
いかにも校則違反な長い髪を揺らしながら、一つ学年が上だという細身の男が言った。
『ははっ!』
ピアスを開けたてで、赤く腫らした耳たぶを触りながら嵐は笑った。
早瀬 嵐、高校入学して選んだ部活の部室の前で立ち往生し、初めて先輩に声をかけられた瞬間である。
入学して二日目、昨夜開けたピアスは、彼に金属アレルギーと、教師から注意を受けるという試練を与えてくれた。
さらに、おまけで先輩にも怒られるものとも知る。
『ピアス、せっかく開けただろうがふさいでもらう。この部に入りたいならね。早速校則違反な君は、入ってもらいたくない。』
その男は、冷ややかな目付きで嵐をみながら、部室の中に入っていった。
嵐は、そのドアが閉まるのを確認してから、慌ててピアスを取った。
若干膿んでいたため、痛みがあったがここで挫折するわけにはいかない。
明らかに校則違反の容姿のやつにいわれた事は府に落ちないが、ここは我慢だ。
『だって…。』
彼は呟いた。
息を吸い込んで、吐く。気持ちはひとつ。
『俺、バンドするんだもん!!』
少しだけ熱をもったピアスを握りしめ、そっとポケットにいれた。
微かに新しい制服の匂いがポケットからした気がした。