最後の恋



「やっぱり外寒いっすね」

「そうだね。あ、っていうかこんなこと聞くのはなんなんだけど…」

「ん?」


どうしても気になってしまい、お店をでてすぐに足が止まった。



「お金…大丈夫?この前の食事も今日の入園料だって払ってくれたでしょ?」



私がそう聞くと、椎名はクスッと笑う。



「莉奈さん、営業部は完全に実力査定の部署って知ってますよね?」


「えっ?あぁ…うん。知ってるけど」


うちの会社は、営業部だけは完全実力主義の部署だ。

上司も部下も関係ない。

つまりは契約をとってナンボ。

だから若くしてトントン拍子に出世しちゃう若手社員もいるし、飛び級昇格する人も稀にいるらしい。



「営業部は契約数に応じて毎月臨時ボーナスが出るんですよ」


毎月ボーナス?

それは初耳だな。



「自慢してるみたいで嫌やけど…俺、先月の契約数ナンバー2やったんです。だからお金なんて全然余裕です!ってことで寒いけどもうちょっとだけ遊びましょね!」


椎名は満面の笑みで私を見ている。



「そっか。じゃあ…なんか申し訳ないけど。ごちそうさま!甘えさせてもらうね」


私がそう言うと椎名はニッとはにかむように笑った。


「じゃあ、いきましょ!」



ビューッと吹いた冷たい風に、目を細めながら歩き出す。

冬は苦手だ。歳をとるごとに年々寒さに弱くなっている気がする。


「あ!あれです、あれ!」


しばらく歩いていると、椎名の声と指差した先に、メリーゴーランドが見えた。

わぁー、メルヘン。

可愛いすぎるメリーゴーランドだ。


「先月新しくリニューアルしたらしいっすよ!」

「そうなんだ?確かに綺麗かも」

「雑誌でチェックしてたんす」

「雑誌?そうなんだ」


発言が可愛いと思った。

もしかして雑誌で調べてたとか?

だとしたらもっと可愛い。


腕に付けたフリーパスのブレスバンドを見せ、私達はメリーゴーランドの列に並んだ。


前には家族連れのような四人が立っていた。

私と同じくらいの年齢っぽいママらしき女性と、こちらも同じくらいのパパらしき男性。

その二人に挟まれるように立つ、小さな男の子と女の子。

キャッキャと笑う子供達の姿はとても楽しそうだった。

そして同時に思ったのは理想の人生プランでは私もこんな風になるはずだったのになぁ、とか。

理想が叶っていれば、25で結婚して26で出産して…私も今頃は立派な母になれていたはず、とか。そんなことを考えた。

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