最後の恋
これから私はどうしたいんだろう。
考えさせてほしいと言ったけど、距離を置いているのに答えはまだ見つからない。
椎名と付き合っていくと決めたとしても、ちゃんと元に戻れるのか自信がない。
だけど、椎名に会いたくなる。
会えなくてもいい、声を聞きたくなった。
プルルルルル…
コール音に耳をすませる。
あの日以来、私は初めての電話をかけてしまっていた。
「もっしもーし!」
騒がしい空気が電話越しに伝わってきた。
「あっ…椎名?」
ドキドキしながら聞くと、すぐに大きな声が耳元に返ってくる。
「残念!同期の大原でーす!」
酔っているからか、やたらとテンションの高い声。
「えっ、あ、大原くん?あの…椎名は」
「つーかさー、松永のおかげで俺、五万損しちゃったじゃん」
「五万?損って…何を?」
訳のわからない言葉に、私はすぐにそう聞き返した。
「ちょっ!大原さん!勝手に人の携帯でんといてくださいよ!」
「いや、だってお前トイレ行ってたから」
聞こえてくる、椎名の声。
そして、騒がしい電話の向こうの雰囲気の中、耳元で椎名の声が響いた。
「えっ、莉奈さん?」
「……うん」
「あぁ…ごめん!今カラオケ来てて。ちょっと待って」
「うん」
しばらくすると、聞こえてきていた雰囲気が静かになった。
「どしたんすか?」
椎名の声が、ハッキリと聞こえた。
「うん…ごめん、別に用はないんだけど…かけちゃったっていうか…」
「…はい」
椎名の声は、やけにアッサリとしていた。
自分との温度差をひしひしと感じた。
「っていうか今、大原くんが五万円損したとかなんとか言ってきたんだけど、何のこと?」
「えっ、や、何のことっすかね?酔ってたんじゃないすか?今カラオケ来て飲んでるんで」
「……営業部の人たちと?」
「いや……あとは…桐谷と佐倉さんと。あと…早川さんがいてます。急ぎの用ですか?」
えっ…?
「いや、ううん。急ぎとかじゃない。大丈夫」
「そっか」
「じゃあ、カラオケ……楽しんでね」
「……はい」
短い通話時間だった。
切れてしまった電話を見つめながら、キュッと唇を噛み締めた。
椎名は今、早川さんと一緒にいる。
どうしてそのメンバーなの?
どうして早川さんと一緒にカラオケになんているの?
訳が分からなくて、苛立った。
だけど、苛立ちを通り過ぎるとただ悲しくなった。