最後の恋
二月半ばの冷え込んだその日、ボルドーのドレスワンピに身を包んだ私は鏡の前で念入りに化粧をしていた。
今日はエリの結婚式。
待ちに待った特別な日だった。
ゆっくりと身支度を整えた私は、11時に予約している行きつけの美容院に向かうため駅前のそのお店へと急いだ。
到着したのは11時ちょうど。
「今日はどういうヘアスタイルにしますか?」
「うん…スッキリ全部あげようかな?アップで」
私がそう言うと、いつも担当してくれている女性のスタイリスト、りっちゃんは「はい!このドレスに合う感じでアップセットしていきますね」と鏡越しにニッコリと笑った。
鏡に映る私は、まだ冴えない感じ。
華やかなドレスワンピに着られているように負けている。
だけど、そこはスタイリストりっちゃんの腕。
カーラーで器用に全体を巻き上げると、時折世間話をしながら私の髪を器用にアップヘアへと変身させていく。
「不思議だね」
「えっ?不思議ですか?」
「うん…すごいよりっちゃん。自分じゃ絶対こんなセットできないもん」
「あははっ、まぁ一応美容師ですから」
「一応じゃないよ、すごいよ本当」
鏡に映る自分がどんどん変わっていく。
さっきまではドレスに着られていたのに、自分で思うのもなんだけど、髪型が変わっただけで本当によく似合ってしまっている。
「よしっ、こんな感じでどうですか?」
りっちゃんはそう言うと、大きな手鏡を私に渡し、椅子をクルッと回すと後ろ側のスタイルが見えるようにしてくれた。
「わー!後ろも綺麗、ありがとう」
「結婚式、何時からなんですか?」
「式は2時からなんだけど受付頼まれてるから1時には着かなきゃいけないんだ」
時計を見ると、11時40分。
「ヒールも高いですしゆっくり向かって下さいね」
「うん、ありがとう」
そして、りっちゃんに見送られながら美容院を出たその時だった。
「わっ!雪だー!」
りっちゃんの弾む声に、私は空を見上げた。
「本当だ…」
空からは、小さな小さな雪が舞い落ちている。