最後の恋


「椎名…あの」

「幸せになって下さいね」

「えっ…あのっ」

「絶対幸せにしてもらって下さい、あの人に」



椎名は私の言葉に重ねるように言った。

幸せになって下さい、幸せにしてもらって下さいと、私にそう言った。



「ウソだったんでしょ…あれは」

「えっ?」

「賭けをしてたって話…ウソだったんだよね」

「えっ……ウソじゃ…ないで」

「ウソだったって知ってる、そんなことしてなかったって知ってる」

「何言ってるん…そんなわけないやん…営業部の先輩とか桐谷達と賭けして、俺…五万勝ったんすよ」


椎名はそう言いながらスピードをあげて歩き始めた。


「ウソつき!」


私はその背中に向かって言った。


「……ごめんね」


もう謝ることしかできないけど…


「ごめんね…ウソつかせて…ごめんね…」


歩いていく椎名の背中を見つめながら言った。



「だから何の話してるん」


だけど椎名は前を向いたまま私にそう言って。


「俺ウソなんかついてないで…ほんまやから」


そう言いながら立ち止まり、こっちを振り返った。


「結婚したら…もう絶対浮気されんように…あいつのことしっかりつかまえときや!」


椎名の目が、少しうるんでいるように見えるのは気のせいなのだろうか。



「莉奈さん」


まっすぐに私を見る目が真っ赤になっているのも…気のせい?


「…お幸せに」


だけど、そう言って椎名が前を向こうとした時、涙がこぼれたように見えたのは…見間違えなんかじゃなかった。


泣いてる。

椎名が泣いてる。


歩いていく背中が、恋しくて…愛しくて
たまらない。


駆け寄って捕まえて素直になれたらどれだけラクなんだろう。


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