最後の恋
私達が笑いながらオフィスに戻ると、周りの目も変わった。
何だかホッとしているようで、気を使われていた雰囲気がなくなっていく。
「さっ、仕事するよー!」
「はいっ!」
だから午後からは、とても良い空気を感じながら仕事に打ち込むことができた。
時々パソコンを打つ自分の手の薬指が視界に入り、外してしまった指輪のことを思い出したけれど、心はもう揺れ動くことはなかった。
「うん、分かった。すぐ行くよ」
それから定時で仕事を終えた私は会社の近くの大通りで待つサトルの車へと急いだ。
そして車を見つけて駆け寄ると、中にいるサトルはボーッと前を見つめていて。
コンコンッと窓を叩き、車のドアを開けるとハッと驚いた顔をしながら私を迎え入れた。
「お疲れさん」
「うん、お疲れ様」
言葉を交わすと、すぐに走り出した車。
今日もサトルの車には、あの懐かしいアルバムの曲が流れていた。
しばらく無言のまま、どう切り出せばいいのか言葉を探していると、サトルが先に口を開いた。
「やっぱりやめようか」
短い、そんな言葉だった。