ハニートースト ~カフェで恋したあなた~
私が知っている片桐さんはほんの一部なのかもしれない。
付き合いが長いだけで、本当の片桐さんのことは知らない。
どんな恋愛をしてきたのか。
夢をあきらめた後、どんな気持ちだったのか。
恋愛対象に見てもらえるわけなんかない。
私は何も知らないし、片桐さんも私を知らない。
何年も仲良くしているから、知っているつもりになっていた。
よく話すけど、大事な話なんてしてくれたことはない。
私は涙が溢れそうになりながら、片桐さんとあきら君の話を聞いていた。
口数が少ない私を気にして、時々話しかけてくれる片桐さん。
笑顔を作ってもすぐに真顔になってしまった。
「じゃ~な!また来いよ。また店に顔出すから」
3時間くらいお邪魔して、私とあきら君は片桐さんの家を出た。
「な~に、落ち込んでんの?お前、わかりやっす~」
角を曲がると、あきら君が私の背中を押した。
「だって・・・・・・」
「俺が写真見つけたからか?」
「別にそうじゃないけど・・・・・・」
「俺は、見て見ぬふりもできた。でも、それじゃ・・・・・・だめじゃねぇ?ちゃんと片桐さんのこと知らなきゃ。憧れの片桐さんってだけじゃ、いつまでたっても彼女にはなれないんだよ」
あきら君、私よりもずっと大人だ。
恋をたくさんしているだけある。
「さすがだね。あきら君」
「何言ってんだよ。お前、本気で好きなんだろ?」
「・・・・・・」
私は静かに頷いた。