ハニートースト ~カフェで恋したあなた~
「片桐さん、お待たせしました」
大きめの声であきら君が片桐さんに近付く。
他にも数組のお客さんがいたので、あきら君が片桐さんをカウンターへ案内した。
「この席、久しぶりだな」
片桐さんがカウンターに座るのは、店が混んでいる時か、お父さんに悩みごとを話す時だけ。
「最近は、隼人も大人になったからな」
お父さんは、片桐さんの前にホットコーヒーを置いた。
「で、あの女の人とどうなったんですか?」
あきら君はストレートに質問した。
ハニートーストの上のバナナを口に入れた片桐さんは、ニヤっと笑う。
「あの女は、もうないな」
その言い方が、いかにも女性に慣れている感じがして、遠くに感じてしまう。
「デートうまくいかなかったんですか?」
「デートはいい感じだったんだけどさ。彼氏いたんだよ。俺に隠し続けようと思ったみたいだけど」
少しホッとしている私がいる。
片桐さんはショックかもしれないのに。
「隼人も少しは真面目になったんだな。昔は彼氏がいる女の子に手を出したりしてたじゃないか」
お父さんは片桐さんの過去をどれだけ知っているんだろう。
「はっはっは。そんなこともありましたっけ?でも、もう俺も29だしね」
「そろそろ本気で結婚でも考えてんのか?」
お父さんたら、そんなこと聞かないで。
私が近くにいることを知ってわざと聞いてるんだよ、絶対。
「俺がぁ?ありえないですよ」
片桐さんは、バナナを口に入れたまま、口を押さえて笑った。
良かった。
そうだよね。
片桐さんが結婚なんて。