ハニートースト ~カフェで恋したあなた~
いつか言ってたことがある。
“俺は、俺の絵を見て欲しいのに”って。
片桐さんが描いた絵だから、女性は素敵だと言う。
誰が描いたかわからない絵だったらそうは思わない。
片桐さんはそんな風に感じていた。
でもね、
私は本当に片桐さんの絵が好きだった。
店に飾っていた絵は、今は私の部屋にある。
静かな海の絵。
大好きなんだ。
「優みたいな子だったら手は出せないですよね」
突然私の名前が出て、我に返る。
「はっはっは。あそこまで純粋な子はいないだろ」
「純粋ってか、ただの天然バカですけどね」
いやいやいやいや、
私のいない所で私の悪口?
「親の前でそこまで言うか?」
お父さんも笑ってるし。
でも、“純粋”って言ってくれた。
自分ではわからないけど、そう思われていることは嬉しかった。
「あ、マスター!俺、最近優海って呼び捨てで呼んでんだけど、いいですか?」
片桐さんは、チラっと私を見てからそう言った。
「もちろん。ありがたいよ」
お父さんは、振り向いて私を見つめて、小さく頷いた。
何?今の。
完全に私の気持ち知ってるって顔してた。