清水君の好きなヒト



「そ、っか…」


私はさりげなく立ち上がると
震える足に鞭打って出入り口の方向へと動かした



「じゃあ、私宿題やってなかったから、もう行くね」

『何の宿題?』

「…古典だよ、書き下し文チェックされるの」


自分でも怖いほどスラスラと嘘が出てくる

早く離れなさいと、心臓が警告音を出す


『僕は国語は嫌いだな』



「…私も、嫌いだよ」







こんな自分
無くなっちゃえと思うほど

この世は理不尽だ




足早に第二理科室から遠ざかると
自分でも気付かないうちにさ迷い歩いて
人気の無い体育館まで来ていた



体育館の扉にもたれかかると
顔を両手で隠して冷たい床に座り込んだ


あんな人

嫌いになれたらいいのに


それが出来ない私がつらい




涙は
意地でも流さなかった








『あれ?榊さん?』

「…須藤君」


ばったりと出くわしたのは
今日来なかった須藤君だった



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