【短編】咎(とが)
転校して、初めて6年4組に入って、教室の中の72個の眼線が突き刺さる中、膝が震え、喉が渇き、それでも

「はじめまして」

と言おうとしたけど。笑顔を見せようとしたけど。

「あんま可愛くねえら!」

って、一番奥の窓側の席の男子に人差し指さされて。

教室の中の空気がボッと沸き立って。机をたたき出す奴もいて。

でも。

でも、一番恥ずかしかったのは、悔しかったのは、哀しかったのは、先生が

「じゃあ、席を用意するから」

って、わたしが顔を伏せ、唇を真横に結んで、体が僅かに揺れているのに、全然気にも留めなかったことで。

大好きだった黒島先生は、女の子の憧れだった黒ちゃんセンセイは、もうそこにはいなくて。

そこにいるのは、ただのスーツを着た女の教員で。

先生という存在も、わたしの体から消えた。


教室の中にわたしの机と椅子はあったけど、それだけだった。

居場所が無かった。最初は話しかけてくる子が何人かいたけど、すぐに終わった。

わたしが面白いことを言わなかったから?話が盛り上がらなかったから?

だって、あなた達の使う言葉が、酷く汚くて、乱雑で、なんで語尾が「らぁ」になるのか、さっぱり解らなかったから。

標準語って知ってる?あなた達は私の喋り方を笑うけど、あなた達がわたしのいた学校に転校してきたら、あなた達が笑われるよ?

「なに、らぁ、って!普通に喋れねえのかよ!」って、ウチのクラスにもいた、一番後ろの窓際の席の、青山君がからかうよ?


ねえ。


何でそんなことも解らないの?
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