恋した鬼姫
「私の国では、人間の言い伝えは聞いたことがありません。」
そう言うと、セラは一歩ほどの幅まで虎に近づきマジマジと見た。

「虎様ってとても美しい顔立ちをなさっていますのね。」
セラは、虎の顔に少し胸をときめかせた。

「まぁ、女には不自由したことは、無いな!」
虎は、得意気に言った。

しかし、虎のほうも気になっていた。セラは、鬼といっていることに関しては、半信半疑だが信じることにした。だが、セラが顔を隠していることに不思議でしかたなかったのだ。

「言いたくなかったら、言わなくてもいいんだが、やっぱり布で顔を隠してるのが気になってな。」


「顔を隠しているつもりはないんです。ただ、頭を隠したくて…。」

セラは、肩を落として落ち込むように言った。
もちろん、虎には意味がわからなかった。なぜ、頭を隠したいのか。虎が理解できてない顔をしていると、セラが話始めた。

「私、角が無いんです。普通、鬼は生まれてくると親から角を贈られます。だけど、私は似合う角がなく15になる未だに角のない鬼なのです。だから…恥ずかしくて。」
セラは、また涙が出そうになったがグッとこらえた。

虎は、勇気を振り絞って話をしてくれたセラに優しく言葉をかけた。

「普通って何が基準か決まってないぜ。だから、自分自身が鬼であることに誇りを持っているだけでいいじゃないか。少なくとも俺は、セラから誇りを感じた!」

セラは、虎の言葉に励まされ勇気がでた。悩んでいた月日から解放され虎の一言で前を向いていける気がした。



「なぁ、命の恩人の顔を俺は拝みたいんだが。」
虎は、お願いするようにセラに言った。


セラは、そっと両手でベールの布を持つとゆっくりベールを外した。

薄暗い部屋の中でも、セラの透き通った肌は輝き、虎にはセラの顔がはっきりと見えた。

虎は、セラの眼の色が違うことよりも、あまりの美しさに驚いていた。
そして、唖然としていた。

「…虎様?」
固まった虎に、セラはオロオロしていた。
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