恋した鬼姫
セラの震えが治まる頃、パーティーが開催される音楽が聞こえてきた。

だが、セラは立ち上がることが出来なかった。そして、何故か無性に虎に会いたくてたまらなくなった。

「会いたい、会いたいです。虎様…。」
セラは、たくさんの涙を流しながら、心が苦しいくらいに締め付けられる思いにかられた。

そしてまた、扉を叩く音がして、セラは涙と体が固まった。

「姫様?いらっしゃらないのですか?」
婆やの声だった。
パーティーが始まっても中々セラが来ないので心配になり様子を見にきたのだ。

婆やは、部屋の中でセラのすすり泣く声が聞こえたので、そっとドアを開けると床に座り込んで泣いているセラを見ると慌てて駆け寄った。

「どうなされたのですか?!姫様!」

セラは、先ほどのことを婆やに話した。

「なんと可哀想な姫様。さぞ怖かったでしょう。」

婆やは、涙を流しながら、そっとセラを抱き締めた。セラは、婆やの温もりでまた涙が溢れでた。


「婆や。私はどうしたらいいの?」
セラは、もうどうしたらいいのかわからなくなっていた。
ただ一つ、虎に会いたい気持ちが溢れそうなくらいになっていたのは、確かだった。しかし、そのことは婆やにも話をしていないことで言えなかった。

「婆やと一緒に逃げましょう!婆やが姫様をお守りします!」
婆やは、突然そう言うと慌てて誰にも気づかれないように馬車に荷物を詰め、セラもバレないように服を着替えさせ、黒いマントを羽織らせて馬車に乗せた。

「でも、婆や。こんなことをしたら、婆やも只では済まされなくなります。」
婆やは、セラの手の上に、そっと手を置くと優しい顔でセラに言った。
「婆やは、姫様のためなら、なんでも出来ますよ。頼りない老いぼれですが、守らせて下さい。」

婆やは、そう言うと馬車のドアを閉め、馬の手綱を持ち馬を走らせた。
その頃、セラがどこにもいないことに城の中が騒ぎだした。

セラの世話役である婆やの姿も見当たらず、王は、家来たちに探すように怒鳴り散らした。

ハンスは、表情には出してはいないが、静かに怒りを込み上げていた。

< 17 / 71 >

この作品をシェア

pagetop