恋した鬼姫
迷い
セラは、秘密の部屋に入り扉を閉めた。
部屋は、半年前と何も変わってはいなかった。セラは、一晩部屋で過ごした。

朝日が破れた障子から入り、セラの顔を照らした。セラは眩しさで目をさました。
起きて夢であって欲しかったが、手のひらと服についた婆やの血の跡が残っていた。

セラは、襖の隙間から外を覗き誰もいないことがわかると静かに襖を開けた。
生い茂っている草は、朝露でキラキラと光り綺麗だったが、セラの心は癒せなかった。

セラは、建物を一周すると井戸を見つけた。セラは、水を汲むと服を着たまま水を頭から被って血を洗い流した。
何回も何回も頭から水を被った。



また夜がきて、暗い部屋の中でセラは、今までのことを思い出していた。そして、二度と鬼の国には戻りたくはないと思った。

そして、虎のことを考えた。
セラは、一年も待てず、自ら虎に会いに行くことにした。しかし、虎の住む里など、セラにはわからなかった。ましてや、人間の国のことを全くもって知らないのだ。
セラは、途方にくれていた。

また次の日の朝がやってきた。セラは、また外に出て草についた沢山の朝露を眺めていた。

その時、朝露の光りとは別にキラッと光るものが草の中から見えた。セラが近づいて見ると、鉢巻きが落ちていた。中心には鉄がついていて何かの紋章が書かれていた。
セラは、ふと思い出した。これと同じ紋章をどこかで見た気がした。
考えていると、虎と初めて出会った時に、虎が持っていた刃物を思い出した。

｢そうだわ！あの時に虎様が持っていた刃物にも同じ紋章が書かれていたわ！それでは、これは虎様の…。｣
セラは、虎が身につけていただけというだけでもその鉢巻きが愛しく思え胸に抱き締めた。

唯一の手掛かりが出来た。セラは、その鉢巻きを頼りに、何もわからない人間の国に旅に出ることにした。
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表紙・目次

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