恋した鬼姫
捕らわれの身
セラは、お婆さんと暮らして3ヶ月がたっていた。人間の国にも慣れてきた頃、
「お前さんが来て毎日が楽しいよ。」

お婆さんは、セラと出会う前に連れ添っていたお爺さんを亡くしたばかりだった。お爺さんは、生前に大工の仕事をしていて、お婆さんの家もセラがいた神社もお爺さんが建てた物だった。
セラが感じた同じ居心地の良さは、お爺さんが作ったからだった。

「でも、まだまだですわ。もっとお婆さんの役に立てるように、精一杯働きます。」
セラは、毎日お婆さんの変わりに畑仕事をしたり、家の掃除も出来るようになっていた。

「充分なほどに、助かってるよ。」お婆さんは、笑顔で答えた。

お婆さんは、いつものように町に出る支度をしていた。月に一度、お婆さんは町に出て作った野菜を売って、そのお金で足りない物を買って来ていた。
お婆さんの住んでいる家は、町外れで周りにはお婆さんの家以外なかった。

セラは、いつものようにお婆さんに留守番をするように言われたが、手伝いをしたいと言った。

「そうだね。お前さんもそろそろ町に出て見てもいいかもしれないね。」
セラは、それを聞くと大喜びをした。

「だけど、一つ約束を守ってもらうよ。決して、人前でお前さんの素顔を見せてはいけないよ。」
そう言うと、お婆さんは傘をセラの頭に深く被せた。

お婆さんとセラは、荷物を背負うと町へ向かった。
町の中で一番栄えている場所に行った。
「さぁ、あそこで野菜を売って、お金に交えましょ。」お婆さんは、そう言うと八百屋に言った。

八百屋の主人は、お婆さんから野菜を買うと店に並べ、お金をお婆さんに渡した。

セラは、人間の国で売られている物に興味津々になっていた。
「何か欲しい物でもあったかね?」
「いいえ、珍しい物が沢山あるので面白くて。これは、何ですか?」

セラは、指を指した。
「それはね、笛だよ。」
木で作った鶯の形をした笛だった。
「笛って何ですか?」

お婆さんは、店から笛を買うと口に加えて息を吹いた。
セラは、驚いた。とても可愛らしい音が笛から聞こえたのだ。
「お前さんにあげるよ。」

セラは、嬉しそうに笛を吹いた。
「お婆さん、ありがとう!宝物にします。」

「大げさだね。」お婆さんはそれを見て嬉しくなった。


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