恋した鬼姫
殿様は、セラに風呂に入り、綺麗な着物を着て、またこの部屋に来るように命じた。
セラは、お婆さんのことを考えれば、逆らうことが出来なかった。お手伝いの者が来て、セラを案内した。

セラは、身だしなみを整えるとまた殿様が待つ金の部屋に行った。

「おぉ!これは、素晴らしい!」殿様は、目を見開いた。

セラは、美しさだけでなく姫としての気品も醸し出していた。
しかし、セラの顔には笑顔はなかった。

殿様は、そのままセラを連れて大広間に行った。大広間には、偉い侍達が沢山いた。セラは、ジロジロと侍達に見られた。

「殿!神聖な場所に女を入れては、どうかと思います。」一人の侍が殿様に意見をした。

「そうか。」殿様は、家来に合図をしたと思うと、意見をした侍を何処かへ連れて行った。
「お許しを、殿!」叫び声だけが遠くから聞こえた。
その後すぐに、大広間には緊張感が出た。セラがいることに誰一人意見を言う者はいなくなった。

そして、セラには難しい話が飛び交い始めた。セラは、退屈で仕方なかった。
それを見ていた殿様は、話を中断したかと思うとセラを連れて大広間を出た。

「なんじゃ。話は面白くなかったか?」
殿様がセラに聞いた。

「面白いも何も、何を話しているのか、よくわかりませんでした。」
セラにとって、人間の国に来て3ヶ月足らずなので、まだまだ知らないことも多かった。

「じゃが、家来達の顔を見たか。話し合いの中でも殆どがお前に見とれておったぞ。」
殿様は、高らかに笑った。
「貴方は、まるで幼子のような方ですね。」
セラは、少し嫌みっぽく言った。
しかし、殿様はその言葉に喜んだ。
やはり、変わっている方だとセラは悟った。そして、この方に何を言っても無駄な気がした。

殿様とセラは、庭園を散歩していた。
殿様は、太陽の下でセラを見た。セラは、まるで太陽の光りを集めたように輝いていた。殿様は、そっとセラの頬に手をおいた。
セラは、ビクッとなったが逆らうことをせずに動かなかった。だが、質問はした。
「何ですか?」

「お前をずっと見ていても、飽きぬ。今まで、どれ程の物を手に入れて来たか。しかし、全てすぐに飽きてしまう。」
殿様に誉められてもセラの顔色は、一つも変わらなかった。


< 31 / 71 >

この作品をシェア

pagetop