恋した鬼姫

セラは、殿様が向かって来ていることには、気づかなかった。
ただ、お婆さんからの文をずっと見つめていた。

鳩が急に騒ぎ出したと思ったら、バッと外に飛んで行ってしまった。
｢ごめんくださ〜い！｣誰かが家に訪ねてきたようだ。
セラは、返事をしようとしたが、ハッとなった。もしかししたら、殿様の家来が来たのではと。
セラは、物音を立てずに黙って玄関に近づいた。

背の高い男の姿が障子に写って見えた。
と同時に、
｢あの影は、犬かしら？後、猿と鳥？｣
セラは、思った。まさか、城の家来達が動物を連れているわけがないし、だけど今頃尋ね人が来るのも不思議だった。

その時。
ポッポ！と聞き覚えのある鳴き声がした。まさかとは思ったがセラは、戸を開けた。

あの白い鳩が飛びついてきた。
｢まぁ！あの鳥の影は、あなただったのね。ビックリしたわ。｣
セラは、ホッとしたのか少しだけ笑みが溢れた。

鳩は、嬉しそうに飛び回るとセラの目の前にいる男の肩に乗った。

｢貴方は？｣セラは、質問した。

｢また会ったね。覚えてないの？昨夜のこと。｣
セラは、それを聞くと覚えてはいないが、その事を知っていると言うことは、もしや黒服の男なのかと男に質問をした。男は、無邪気な笑顔で頷いた。

｢どうして城に火をつけたのですか？！何もあんなことをしなくても。｣
セラは、男の行動があまりに飛び抜けていたので、困った顔で言った。

｢えぇ〜！せっかく助けに行ってあげたのに、そんな言い方ないよ。それに、あんたがいた部屋の周りにしか火はつけてないよ。｣男は、頬を膨らませて、ムスッとした顔をした。
｢私を助けに？では、もしや鳩さんの足に結んだ文を読んだのですか？｣

男は、頷いた。そして、少し悲しい顔をすると、
｢ごめんよ。お婆さんのこと助けてあげれなくて。一足遅かった。｣
セラは、それを聞くと男に何も言わずに深く頭を下げた。
それを見た男もお辞儀をした。

｢そう言えば、自己紹介していなかったな。俺の名は、喜助だ。あんた、セラって言うんだろ！噂は、聞いてるよ。｣喜助は、ニヤニヤと笑った。

｢えぇ、私はセラですが、なぜそれを？お婆さんに宛てた文には名前など書いておりませんが。｣

｢あるお方が、あんたの話を聞かせてくれたのさ。｣