恋した鬼姫
喜助は、そう言うといそいそと荷物を出し始めた。
「あの〜、所でこの動物さん達は?」

「俺の友達だよ!」喜助は、無邪気な笑顔で答えた。
セラは、そんな喜助につられ強張った顔は、いつのまにか和らいでいた。

「よしっ!じゃあ、支度しようか!」
喜助の突然の言葉にセラはキョトンとなった。

「何の用意ですか?」セラは、見た。喜助の手には、派手な着物とお化粧道具を持っていた。そして、何故か楽器のような物が見えた。
セラは、なんとなく嫌な予感を感じた。

ふと、セラは喜助が言っていた言葉が気になった。
「そう言えば、喜助様。私のことを聞いたと言っていましたが、何方からお聞きになったのですか?」
「喜助様は、やめてよ。喜助か喜助さんとかでいいから。そうだな。今は、名を言葉にするのは無理だけど、これを見ればわかるかな?」
喜助は、隠していた刀を少しだけ出した。

セラは、刀を見ると嬉しくて夢ではないかと、疑った。
刀には、虎へ繋がる唯一の手がかりである鉢巻きの紋章と同じ紋章が彫ってあった。
しかし、なぜ虎は来なかったのか、残念そうな顔をした。

「俺じゃあ、不服か?」喜助は、膨れた顔をした。

「いいえ、滅相もございません!」
セラは喜助から、虎が今は大事な用事があり、里を出ていることを聞いた。だが、今から里に向かえば、丁度虎も里に帰っている頃だろうと聞いた。
「私を虎様のいる里に、連れてって下さるのですか?!」
セラは、嬉しくて心が踊るようだった。

「だから、ほいっ!これ。」
喜助は、持っていた派手な着物をセラに渡した。

「やっぱり着なくては、いけませんか?」セラは、少しためらった。

突然、犬が吠えた。
その鳴き声に喜助は、遠くを見つめると、ためらっているセラに急ぐように伝えた。
「早くしないと、もうすぐここに殿様が来るようだ。」

セラは、それを聞くなり急いで家の中に入り、着替えた。

着替えたのはいいが、何ともヘンテコな格好だ。鬼の国で言えば、ピエロのような姿だった。

セラが家から出てくると喜助は、物凄い速さでセラにお化粧をした。そして、小太鼓を首から下げた。セラは、鏡で自分の顔を見た。やはり、ピエロだった。

喜助は、満足げな顔をしていた。
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