恋した鬼姫
朝になり、セラが起きると喜助がいなかった。セラが岩を登ると、喜助は胡座をして座ったまま、遠くの方を見つめていた。

「ん?起きたのか?」喜助は、そう言うと振り返ってセラを見た。

「ずっと、起きていらっしゃったのですか?」
セラは、とても申し訳なさそうな顔で喜助を見た。
「いや、眠れなかったから序でに見張りをしていただけだ。」
喜助は、岩から飛び降りた。そして、そっとセラに手を差し伸べた。セラはニコッと笑い、喜助の手に手を添えて降りた。

喜助は、内心ドキドキをしていた。
そして、喜助は思いきって気になることを聞いた。

「セラは、その虎様って言う人のことを好いているのか?」
実際に、喜助は虎のことを別の呼び方をしているが、まだセラには、里に着くまで話をしていないので、セラの知っている呼び方の通りに言った。

その質問に、セラは困った顔をしたが、頬を赤らめ、喜助には明らかに、セラは虎に対して好意を持っているとわかった。

「わかりませんが、私にとってはとても大切なお方です。」セラは、嬉しそうに話をしたが、喜助は少し不機嫌になっていた。

虎の話をしている時のセラは、頭の中は虎のことで一杯になるので、喜助が不機嫌になっていたことなど気づかなかった。

喜助は、口を開いたと思ったら突然、
「虎様は、モテるぜ。周りには、いつも色っぽい女はいるし、セラのことは妹みたいだって言ってたぜ。」
セラは、それを聞くと悲しい顔をしたが、顔とは裏腹な言葉を口にした。
「虎様に、妹として見られるのは嬉しいですよ。なんだか特別になれた気もしますし。」

喜助は、鈍いセラに腹を立てたが、健気に虎を想っているのが悔しかった。

「虎様の妹でいいなら、…俺の女にならないか?」
喜助は、ポツリと呟いた。
しかし、セラにはハッキリと聞こえていた。目をパチクリと瞬きをして喜助を見ながら、固まった。
喜助は、顔を真っ赤にしたと思うと、朝食の魚を捕ってくると言って、その場から急いで逃げた。

セラは、悩んだ。喜助はとても優しいが、セラの心の中では、虎の存在が大きかった。
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