恋した鬼姫
虎は、そのままセラの腕を掴むと屋敷の方へ歩いていった。

喜助は、虎に睨まれて内心ドキドキしていた。まるで、蛇に睨まれた蛙のように。

敷地内に入ると、セラは虎の手を振りほどいた。
虎は、驚いた。

「すみません、勝手に家から出てしまって、もう大丈夫です。お休みなさい。」
そう言ってセラは、虎の顔を見ずに行こうとしたが、虎は透かさずセラの手を掴んだ。

「心配したんだぞ。夜は、あんまり出歩くな。変な奴もいるからな。」

それを聞いたセラは、強い口調で言った。
「喜助さんは、変な人ではありません!とても優しいお方です!」

「アイツがいい奴なのは、知っている!だが、アイツも男だ!夜に会うのはダメだ。」

「いつまでも子供扱いしないで!もう私も立派な大人です。」

セラと虎は、口論した。

「…分かっている。だから、心配なんだ。初めて会った頃よりも、お前の美しさは増した。」
虎は、セラの頬に手を添えた。

セラは、胸が締め付けられる気持ちにさせられた。
それでも、気持ちを押し込めて虎の手から頬を離し、顔を逸らした。

虎は、ムッとなりセラの体を持ち上げると、そのままセラの部屋に入った。
「下ろしてください!虎様!」
虎は、セラを下ろし、座らせた。そして、セラの目の前に座ると質問をした。

「何が気に食わない。俺の中では、素直な奴だと思っていた。だが、今のセラは、素直ではない。なぜ、何も話さない。」
虎は、セラの目を見つめた。

セラにも、分からなかった。まるで、自分が別人のような気がして初めて経験した気持ちだった。
ただ、どうしても虎に聞きたいことが合った。

「先程、…一緒に部屋に入って行った女の方は、まだ…虎様の部屋にいらっしゃるのですか?」
セラは、言葉に詰まりながら喋った。


「今は、そんな話をしていないだろ。話をはぐらかすな。」

セラは、はぐらかしたつもりはないのに、虎は鈍かった。

セラは、悔しくなった。自分ばかり、こんなに気持ちが揺すぶられているのに。

セラは、口を開かなくなった。

虎は、困ってしまい、取り合えず引き下がる事にして、セラの部屋から出ていった。


その日の夜、せっかく虎と出会えたのに、それよりも気持ちがモヤモヤして眠れなかった。
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