恋した鬼姫
翌朝から、セラは虎の顔を見なくなり、二人ともギクシャクしていた。

月日は、あっという間に立ち、セラも里に打ち解けた頃、虎を含め里の男達は、里にいない事も多く、長くて一月は帰ってこない日も続いていた。

女、子供は、その間協力をしながら生活をして、男達の帰りを待っていた。

セラも顔には出さないが、虎が無事に帰ってくれば、内心喜んでいた。

そして、また虎達は里を離れ旅に出る日がやって来た。盗賊と言えども、貧しい者を苦しめて金品を持っている者から盗み、また貧しい者に分け与えるという変わった盗賊団だった。

セラは、虎とは話さずに、いつも喜助と会話をして見送っていた。
しかし、いつも何も言って来なかった虎が、今回はセラに話があると言い二人だけになる場所へ移動した。


「今回の旅は、長くなる。帰ってくるまでに一月はかかる。だが、必ず丁度セラと会って1年目の日に帰ってくる。待っててくれるか?」

セラは、日々里に慣れることで頭が一杯になり、忘れていた。

「…覚えていて下さったのですね。」
セラは、虎と再会の日以来、久しぶりに虎に口を開いた。

「当たり前だ。帰ってきたら、セラの16の誕生日を一緒に祝おう。」
虎は、優しい笑顔でセラに言った。

セラは、嬉しくて涙を浮かべ、頷いた。
「どうか、ご無事で。」



そして、虎達は旅立った。
その後のセラと言えば、一日一日が立つのが嬉しくて、やけに元気だった。
しかし、里には虎と親密な関係がある女達は、ちらほらいる。たまにセラも里で、すれ違うが無視はしない、だが頭を下げても会話はしなかった。

セラの毎日は、虎一色になっていた。虎のために料理を覚え、広い屋敷でも掃除を欠かさずにしていた。



虎達が帰ってくる日まで、後1日と迫っていた。セラは、ソワソワしながら前の日からご馳走の用意を進めていた。

夜になっても、なかなか眠れずに何度も襖を開けては、夜の星空に向かって、無事に虎が帰ってくる事を願った。

そして、朝がやって来た。女達は、まだ霧も晴れていないのに家から出て男達が帰ってくるのを待った。女達は、どれだけ早く起きたのか、全員がめかし込んでいた。もちろん、セラも覚えたてだが、化粧をして一番お気に入りの着物を着て、虎の帰りを待った。
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