恋した鬼姫
「帰ったぞー!」虎の声と共に、男達はゾロゾロと帰ってくる。
セラも大きく手を振っている虎が見えた途端に、虎へ真っ直ぐ駆け出した。


だが、人混みの中でセラの目の中に入ってきたのは、セラよりも早く虎に駆け寄った別の女が虎に抱きつき。
そして、セラの目の前で虎とその女は、口づけを交わしていた。



セラは、少しずつ少しずつ後退りをして、そのまま反対を向いて屋敷の方へ走った。

喜助は、その様子を見て、急いでセラの元へと行った。

喜助がセラの部屋を覗くと、セラは泣きながら荷物をまとめていた。
それを見ていた喜助は、どんなに辛い思いをしても、未だに虎を忘れることが出来ないセラに腹が立つ上に、こんなにも自分が想っているのに、振り向いてくれないセラが憎くなった。

そして、セラは誰にも何も告げずに里の外に出た。

喜助は、こっそりと後を追ったが、途中でセラの荷物から一つの木箱が落ちた。
喜助は、慌てて拾うがセラには渡さずに、どんどん見えなくなっていくセラの後ろ姿を見つめた。

セラが見えなくなると、喜助は木箱を開けて見た。木箱の中には、鍵が入っていた。
喜助は、鍵ごと木箱を懐に納めると里に戻った。

なぜ、喜助はセラを止めなかったか、それは虎とセラを引き離すためだった。


その頃、虎は屋敷の敷地内に入るなり、満面の笑顔で大声を出しながらセラの名前を呼んだ。

しかし、セラの返事は何処からも聞こえて来ない。部屋中を見ても見当たらず、台所ではセラがご馳走の用意をしていた途中の後が合った。

不振に思った虎は、もう一度セラの部屋に行くと、セラが使っていたタンスを開けて見た。中身が空っぽになっていた。

虎は、急いで里の皆を集めると、誰かセラを見ていないか聞いた。だが、朝に一緒に男達の帰りを待っていた時は、見かけた者はいるが、その後は誰も知らなかった。

つい先程までいたことは確かだが、なぜ急にいなくなったか、虎には分からなかった。
虎は、セラが里の中にいない事が分かると、里の外に出た。
辺りを見渡しても、セラの姿はなかった。

「なぜ、何処かへ行ってしまったんだ。」
虎が途方にくれていると、後ろから喜助がやってきた。
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