恋した鬼姫
翌朝になり、処刑台の近くには沢山の見学者が見に来ていた。
中には、虎に救われた者や恨んでいる者も多数いた。

沢山の声が飛び交う中、虎は縛られたまま、処刑人に引っ張られながら、現れた。
虎の姿は、酷く痛め付けられて立っているだけでもやっとのことだった。

そんな虎の姿に皆が静まり返った。


殿様は、処刑台が一望出来る場所で堂々と座った。その横には、布を頭から被り顔を隠したハンスの姿もあった。

虎は、処刑台に両手と両足と胴体を十字の形のまま縄で縛られた。

処刑人は、虎に言った。
「思い残すことは無いか?」

必ず、処刑人は罪人の最後の言葉を聞く事になっていた。



「…ある。」虎は、遠くの方を見つめて言った。

「よしっ!言ってみろ!」


虎は、一度ため息をついて言った。

「惚れている女がいる。想いを告げる事が出来なかった。」


「…わかった。俺がもし会う事があれば、お前の変わりに伝えておこう。」


「それは、有り難い。………セラ!今日からお前は、俺の嫁だ!!!」

虎の叫びと共に、二本の槍が虎の体を突き抜けた。



こうして、虎の命は絶たれた。



「ふんっ、最後の悪あがきか。人間と言う者は、愚かだな。」
ハンスが言った。

「そうじゃな。しかし、わしもその愚かな人間でな。」
殿様は、そう言うとハンスに向かって大豆を投げつけた。大豆には、陰陽師によって、鬼の力を封じ込める力が込められていた。

「貴様!何のつもりだ?!」
ハンスは怒り、角の力を使おうとするが、ハンスの周りに落ちた大豆が角の力を吸収して、上手く力を出せなかった。

殿様は、透かさず持っていた刀でハンスの首を落とした。

「これで邪魔者はいなくなった。セラは、誰にも渡さぬ。」
殿様は、意図も簡単にハンスも裏切った。


殿様は、侍達にセラを見つけ出すように命じた。

その中には、虎の最後の言葉を託された処刑人もいた。


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