恋した鬼姫
愛子は、笑い終えるとブランコから降りて、せらの前にしゃがみこんだ。

せらは、愛子がじっと見つめてくるのでソワソワしていた。

「図書室で会った人って、どんな人なの?」

「…わからないけど、ちょっと見た目は怖かったかな。」
せらは、恥ずかしそうに答えた。

「へぇ〜、じゃあ何を話したの?」

「えっ、何も話してないよ。殆ど一瞬の出来事だったから。」

愛子は、口を開いたまま固まった。

「ちょっと、愛子聞いてる?」

「聞いてるわよ。ってか、驚いちゃうわよ。それってつまり一目惚れでしょ。

せらの顔は、真っ赤になりモゾモゾと照れたように動いた。

愛子は、なんだかそんなせらが可愛くてたまらなくなり、楽しくなった。

そして、一つ提案を切り出した。
それは、明日もう一度放課後に図書室に行き、その人がもしいたら声をかけてみると言うことだった。

「無理!無理!そんなこと出来ないわよ。それになんて声かけたらいいかわからないよ。」
せらは、焦った。

「何って、適当に挨拶すればいいんじゃない?」
愛子も思いつかなかったので適当に答えた。

せらは、焦ってはいたが内心満更でもなかった。

「じゃあ、明日ね!楽しみにしてるわ。」
愛子は、そう言うとそそくさと帰っていった。

後に残されたせらは、夜空の星を見るなり、大きなため息をついた。
しかし、疲れているため息でも、嫌なことがあった時のため息でもなく、初めてする心地よいため息だった。

せらは、その夜眠れない時間を過ごした。
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