恋した鬼姫
トラは、力が抜けたように地面にしゃがみ込んだ。
「大丈夫か?!」警察官は、慌ててトラに近づいた。

トラの目に一番最初に見えたのは、せらと同じ携帯だった。

しかし、それだけではまだトラの心の中では、信じられないという気持ちでいっぱいだった。

トラが呆然と持ち物を見ているとスーツ姿の警察が近づいてきた。

「これも見てもらえないか?」そう言うと、持ち物の手帳を拾い、開いてトラに見せた。

それは、今日の日付の所だった。


トラは、それを見るなり、いきなり叫ぶと泣き崩れた。

……………………
○月○日。(日)
トラ先輩と○時に待ち合わせ。今日は、映画デートだ!
…………………
大きなハートマークと一緒に書かれていた。



トラは泣きながらも、せらに会わせて欲しいと警察官にしがみついた。

心の底からせらではないと信じたい。別人であって欲しいと願っていた。

だが、警察官は見ないほうがいいと、必死でトラを止めた。
「今の君の状態で、彼女に会えば、君自身壊れてしまう。色々と話が聞きたいから、一緒に警察署まで来てくれるかい?それと彼女の身元を教えて貰えると嬉しい。一刻も早く家族の元へ返してあげたいからね。」

トラは、急に大人しくなり、怖いくらいに静かになった。
まるで、魂が抜けたように。

その後、トラは自分の家に帰るまでの間の記憶がほとんど飛んでいた。
トラが気づいた頃には、家の前に立っていた。

トラは家には入らず、そのまま歩き始めた。せらの家に向かって。


トラは、せらの家の前にたどり着いたが、家は静まり返っていた。
今頃、家族も警察署にいる。せらの体が家に帰ってこれるのは、検死が終わってからだ。つまり、犯人はまだ捕まっていない。

トラは、また歩いた。向かった先は、最後にせらがいた三本橋だった。

トラは、三本橋の上からせらが見つかった場所を眺めていた。

ドンッ!
その時、突然誰かが背中にぶつかってきた。

振り返ると愛子だった。


愛子は、血がついた包丁を握り締めていた。

「えっ?」トラは、何が起きたのかわからなかった。そして、背中から激しい激痛を感じた。


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