カラス君と黒猫さん
「カラス君?」
にっこりと、目を細めて差し出してくる手。
「この握手って、」
「一日だけ。女装、してくれるよね?」
首をひょこ、と傾げて下から覗かれる。
可愛い。大変可愛いんだけども。
その手は握り返せないよ黒猫さん。
「黒猫の“お願い”が通じない男初めて見たー」
「今日さ、顔に傷つくちゃって仕事できないの。そんな深い傷じゃないし、明日には化粧で隠せると思うし。いい経験だと思わない?」
「そうだぜー。男が男接待するの面白そうじゃんー」
「他人事だと思ってるでしょ・・・・。
それに、こんな午前から客なんて・・・」
黒猫さんが受付の台に凭れて、くすりと笑った。
「・・・・・ここはキャバクラ。確かにそうだけど他の所とはちょいと違うぜ?ギャンブル、接待、その他色々ある。」
「私は接待しかやんないけど」
「24時間ここに入ればいつも夜中。知る人ぞ知るキャバクラ〝LAURA〟だぜ?」
「つまり、一日中客は溢れているって訳。ここなら警察の目にも届かないし」
「うぉあ」
ミヤビ、と呼ばれた男は、咥えていた煙草を落とした。