とある堕天使のモノガタリⅣ ~TORAH~




不動産屋は30分遅れでやって来た。



小太りの頭が薄い男性で、急いで来たのか額から汗が噴き出している。



『いや~申し訳ない!前のお客さんの話が長くて、遅刻してしまいましたよ!』



ニックは『大丈夫ですよ』と微笑んだ。



『今ご案内します!』



そう言って忙しない動きで入口の扉に手を掛け、施錠を外した。



『建物は年数経ってますけど、意外と造りはしっかりしてますし、部屋数も結構ありますからこの価格は買いですよ、買い!』



室内は親族によって片付けられたみたいだが、家具はほぼそのままだった。



『前の住人は?』



『えっ…?ま、前の住人…ですか?』



『うん。なんでこんないい家を売りに?』



『…年老いた老人が独りで暮らしてましてね…実は数ヶ月前に亡くなられたんですよ…』



言いづらそうにそう話す不動産屋にニックは『ふーん…』とわざと気のなさそうな返事を返した。




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