とある堕天使のモノガタリⅣ
~TORAH~
ベッカーによる“催眠療法”はその日の翌日行われた。
ダンが直前になって不安そうな顔をすると、ベッカーはいつもの柔らかい笑顔を向けた。
『大丈夫ですよ、危険を感じたらすぐ中止しますから。』
『はい…。あの、先日も言いましたけど、自分の記憶の内容は誰にも言わないでください。』
『ええ、判ってます。患者さんのプライバシーは守りますよ。』
ダンは小さく深呼吸するとゆったりとした椅子に身体を埋めた。
ベッカーの指示に従って目を閉じると、ダンの頭の中に彼の声だけが響く。
『…今何処に居ますか?』
『…シアター…メイスンと一緒にモニターを観てる…』
『あの日のあなたが見えますね?…では時間を進めましょう。』
ベッカーの声に導かれるようにダンの時間がゆっくりと動き出した。