とある堕天使のモノガタリⅣ
~TORAH~
右京は忍を振り返って「大丈夫だよ」とこっそり声を掛けた。
「そうね…幽霊には見えないし…」
「お前、失礼なヤツだな…。」
「だって…めちゃくちゃ怖かったんだもん…」
その会話が聞こえたのか、住職は大きな口を開けて笑った。
「よく若者がこの寺に肝試しに来るんですよ。私の顔を見て叫びながら逃げてくんですけどね?」
「ごめんなさい!…大変失礼しました。」
深々と頭を下げる忍に「いいんですよ」と住職は微笑んだ。
住職はこの寺には不釣り合いな程気さくな人だった。
寺を訪れる人もなく暇だと言って二人を快く招き入れてくれた。
「で、何を取材してるんです?」
「最近マスコミを騒がせてる“怪現象”です。…この辺りは“鎌鼬”の言い伝えもありますよね?」
「昔からありますよ。私も祖母からよく聞かされましたし…。でも実際にあの傷を見たのは初めてですけどね。」
右京は住職の何気ないその言葉が少し引っ掛かった。